「そしたらさ、少し離れたところから拍手が聞こえたんだ。
びっくりしたよ。まさか他に人がいるとは思わなかったからね。
彼は拍手をしながら僕に近づいてきて『素敵な声をお持ちですね』そう言いながら僕の横に腰を下ろした。
『続きを』そう言われて、僕は何曲か同じように旋律を口ずさんだ。
『歌はお好きですか?』そう聞かれた。僕は素直に頷いた。
そうするとその男性は徐に時計を確認して言った。
『もうそろそろ声楽科の歌が始まりますよ。時間があるなら聞かれてみてはいかがでしょう?』って。
僕はお礼を言って声楽科の歌を聴きに戻った。感動したよ。
大きな舞台でマイクも使わずにホールの奥まで届く歌声に。
それまで僕は小さな声でしか音を奏でてこなかったからさ、あんな風に歌えたらどんなに気持ちいいだろうって」


