あなたが居なくなった日。


「僕ね、ボーカルトレーニングに通えることになったんだ。ふふっ。

これだけじゃ分からないよね。

ほら、僕ってとても恵まれた環境で育ってきたじゃない?

父さんも母さんもプロの奏者で、その血を受け継いでいる僕の実力は天才的で。

だからさ、父さんや母さんはおろか周りの大人は全員が全員、僕が奏者になることを望んできた。

僕もそれが当たり前だと思ってた。

僕の未来はその道しかないって、他の道なんて考える必要もないって思ってた。

そう思ってピアノを弾き続けてきてた。

そして、ここの学生になって僕は衝撃を受けた。

クラスの奴らはみんなピアノを好きで弾いてるんだ。

そりゃ文句を垂れることもあるよ?でも基本の感情は演奏が好き。

だからここで学んで。更に進学して。

好きだからこそプロになる事を目標に、夢にしてるんだ。僕は驚いたよ。

だって、僕は別に演奏が好きじゃないんだ。

もちろん嫌いではないけどだからと言って好きでもない。

でも僕には才能がある。

だからプロを目指すのが当たり前だと思ってた。

でもみんなは違う。好きだからプロになるんだ。

それって、なんだかとっても羨ましかった。だってそうでしょ?

好きな物を極める事を目標や夢に設定してるんだ。

そんなの楽しいに決まってる」