楽譜だって貸したままだ。 彼はかなりの自由人ではあるけど礼儀はきちんと弁えている。 人から借りたものはきちんと返しに来る人だ。 だったら、言葉を交わすチャンスは必ず訪れる。 私はそれを信じて待つだけ。 考えたって仕方がない。 「今日も行くの?」 「もちろん!」 冬休みが明けて一ヶ月が過ぎている。 その間も私はあの練習室に通い続けている。 私と新田くんにはあの場所しかないから。 その場所で、私はピアノを弾き続けている。