どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。
でもだって、意識をそらすことで精いっぱいだったんだ。
そうしないとここまで来ることすらできなかったかもしれないんだ。
「はぁ」
これで何度目のため息だろう。
思い出すのも数えるのも億劫で、私は速足だった歩みを更にスピードアップさせて敷地の奥にある音楽科専攻専用の図書室へと向かった。
「三咲ちゃんおはよう」
図書室へ入ればそこには既に新田くんの姿があって、彼は爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。
「あ、その……、おはようございます」
「今日はいい天気だね」
「まぁ」


