「やあ」 不審に思った私が友の名前を呼ぶより先に普段は聞くことのない、最近知ったばかりの声が聞こえた。 「三咲ちゃん達はいまから帰り?」 振り返らなくてもこの声の主は分かる。 ってか振り向きたくない。 けど、名指しで話しかけられた上に友に右半身を小突かれれば無視をし続けることも難しい。 仕方ないから恐る恐る声の方へと振り返る。 そこに立っているのは天才ピアニストの新田くんだ。 「重そうだね」 新田くんは本に目を向けながら何ともないみたいに話しかけてきた。