イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる

先を望まれない王太子、とアディは少しの寂しさを感じていたが、こんな風に王太子を大切に思う人も確実に存在するのだ。その事実に、アディは胸が温かくなるような気がした。

 その執事の性格には、いくばくかの問題があるようだが。

「わたくしは、王太子妃となるべくここへまいりました。たかだか一人の執事にその有無を判断されるなど、とうてい承服できません」

「では、その扉を出ていますぐお帰りいただいて結構です。ただし」

 うっすらと笑みを浮かべて、ルースはエレオノーラを見おろした。

「メイスフィール公爵家令嬢は、ただの一日も王太子妃としてのレッスンに耐えられなかったと風評が流れても責任はとりかねますが」

 言葉は丁寧だが、慇懃無礼なその姿に、アディを含めて三人の王太子妃候補は絶句する。