イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる

「ここに来るまでにこちらのお庭を拝見してまいりましたが、季節の花々が咲き乱れていてとても素晴らしいです。特に中庭の花壇にはネモフィラがたくさん咲いていて、まるで青い絨毯のようでした」

 アディは、先ほど見た窓からの光景を思い出しながら微笑んだ。

 この部屋は暗すぎる。どれほど元気な人間であっても、こんなにどんよりとした空気の中にいたら、それだけで具合など悪くなってしまうだろう。

 名前のつくような病気でふせっているわけではないと聞いている。今の王太子に必要なのは、新鮮な空気と明るい光だ。もし日の光に弱いというなら、木陰でも構わない。

 明るく美しい景色を、アディは王太子と一緒に見たいと思ったのだ。

 ふ、とアディの耳に小さい吐息が聞こえた。まるで、笑いが漏れたかのような。

 それが天蓋の中から漏れたのか、それとも目の前の執事が漏らしたものなのかはわからなかった。