イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる

「アデライード・モントクローゼス伯爵令嬢様」

 紹介されて、アディはさらに深く腰を落とした。

「ポーレット・ネイラー男爵令嬢様」

 栗色の髪の女性が紹介されたのを聞いて、アディはもう白旗を揚げたい気分になる。

 ネイラー男爵といえば、キリリシアで一番広い領地を持つ地方豪族家だ。爵位ではアディの方が上に来るが、財産規模は、絶賛火の車の中にいるアディの家とは比べ物にならない。

 すると、天蓋の中から王太子がルースを手招きした。ルースが天蓋の中に入ると、なにやら王太子と話をしている。その声も、密やかすぎてアディには声色さえもわからなかった。

 出てきて再び背筋を伸ばしたルースは、三人を見渡すと言った。

「これから一ヶ月、王太子妃となるべく励んでほしい、という事です」

 三人そろって頭をさげたアディの耳に、凛とした声が聞こえた。