イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる

ルースはもうメイドたちのことなど忘れたように振り返ると、自分の胸元からハンカチを取り出してアディのドレスを拭いた。

「申し訳ありません、少しかかってしまいました。使用前の水だったのは幸いでしたね」

「……どうせこんな時代遅れのドレス、濡れたところでどうとも」

 先ほどの恨みを込めて、アディは小さく言った。ルースは、ちらり、とアディを見上げてから立ち上がる。

「これは時代遅れと言わずに、伝統的というのです。そんなこともわからないようでは、せっかくこのドレスを用意してくださったご家族に失礼ですよ」

「え?」

 きょとんとアディが目を丸くすると、水たまりをよけてアディを先導しながら、ルースが言った。