イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる

「けがはありませんか?」

 ルースは穏やかな声でそう言って、メイドたちの手を取って立たせる。

「は、はい。申し訳ありません」

「ルースさんのお召し物が……」

 アディをかばったせいで、ルースの足元は水でびしょ濡れになってしまった。

「私は大丈夫です。ここを片付けて、急いであなたたちも着替えてください」

「はい」

「はい」

 わずかに笑みを浮かべたルースは、姿勢を正すとメイドたちに諭すように言った。

「おしゃべりに夢中になるのは、例えば私と二人だけの時にしてください。今後は気をつけてくださいね」

 ぽーっとなった一人のメイドを、もう一人のメイドが慌てて手を引いて元来た方向に戻っていく。おそらく、ぞうきんなどをとりに行くのだろう。