この時代、結婚といえば家と家を結ぶ政略結婚が普通だ。未婚の娘は、それぞれの貴族の大事な切り札となる。自身の地位や権力のために、より有益となる家を選んで嫁がせるのが慣例となっていた。

 王太子妃の座は魅力的だが、その王太子の首が挿げ替えられるかもしれないという、今はかなり微妙な時期であった。

「どちらの家のご令嬢が、王太子妃になるのでしょうねえ」
 さすがに、次の王太子のことは、などとは冗談でも話題にしにくい。話は自然と、いまだに決まっていない王太子妃のこととなる。

「未婚の方といえば、フォーラスのロザリンド嬢に、バナシルの子爵令嬢……」
「メイスフィール公爵令嬢にも、まだご婚約者はおりませんことよ?」
 女性たちの目が一斉に、中央付近にいる金髪の女性に向けられた。仮面についた羽根飾りを揺らしながら、どこか不機嫌そうに年配の男性と話をする若い女性がいる。