一度腹をくくってしまえば、切り替えは早い方だ。どうせ王宮には上がるつもりだったのだから、女官よりもよほど王太子妃の方が後ろ盾としては強くなる。手段は違えど、アディの目的は伯爵家の存続なのだから、何も問題はなかった。アディは、あまり細かいことは気にしない性格だった。

 うきうきと笑っているように見える娘を、モントクローゼス伯爵は複雑な思いで見つめた。

  ☆

「なんか……気が抜けちゃったな」
 その夜、アディは自室でぼんやりとしていた。スーキーの入れてくれたお茶は、すっかり冷えてしまっている。

 あとでこっそりとランディが教えてくれたのだが、王太子妃としてアディを召し上げたい、という話をモントクローゼス伯爵が聞いたのは、もう一月も前の話だという。ことがことだけに、モントクローゼス伯爵は娘に言い出すことができず、ずっとその話は宙ぶらりんになっていたらしい。王宮からの催促が続くのに困った挙句、ランディに相談したのだという。

 それだけ心を砕いてくれただけで、アディはもう十分だった。