「まあ、ご存じないの?」
 ここぞとばかりに夫人たちが口を開く。

「今の王太子様はご病弱であられて」
「年の半分は別荘で療養されていて」
「普段王宮にいる時も、離れの宮でほとんど寝たきりだとか」
「あれでは、王太子としての務めを果たせるのかどうか……」
「それに、ほら、もうすぐテオフィルス殿下も二十五歳ですし」

 この国では、二十五歳までに婚姻していない王族は、王位継承権を失ってしまう。つまり、現王太子は、今年のうちには結婚をしていないと、来年は王太子ではなくなるということだ。
 だが、いつ亡くなってもおかしくない病弱な王太子に年頃の娘をむざむざと嫁がせる貴族などいない。