幸せな報告はあっという間に国中に広がり、人々の間では王太子の結婚の話が持ち切りだった。

 その一方、ネイラー男爵の領地の半分以上が国のものになったという話題も、人々の間を席巻した。通常なら社交界で大きく取り上げられるはずの大事件だったが、王太子の結婚式というさらに大きな話題を前にしてその噂は、あっという間に影をひそめてしまった。

 だからその男爵の独身の娘が一人、僻地にある別荘にひっそりと引きこもってしまったことも、口さがない貴族たちの話題にはほとんどのぼらなかった。彼女の行く末に想いを馳せたのは、せいぜい王太子妃となった元伯爵令嬢と同じく新婚のメイスフィール公爵夫人の二人くらいだっただろう。