きらきらとした雲母を大量に仮面につけた夫人が、思い出した風を装って言い出した。
「まあ。テオフィルス殿下の?」
「ようやく、ですわね」
 別の夫人がさりげなく話に食いつくが、それは今の社交界でもっとも関心を持たれている話題だ。たちまちその話を耳にした婦人たちが群がってくる。

「ええ。何人かのご令嬢のところにお声がかかっているようですけれど……」
 言いよどむ夫人に、他の婦人たちもしたり顔でうなずく。

「あれでは、王太子妃を望む家など見つからないのではありませんの?」
「そうみたいですわね。なんでも、ことごとくお断りをされているとか」
「王太子妃を断るなんて、そんなことあるのですか?」
 すっぽりと頭からかぶる鳥の仮面で顔の上半分を隠した男性が、持っていたワインのグラスをテーブルに置きながら言った。声の調子からして、かなり若い青年らしい。