昨日はぎこちなく午後の講義に出たアディだが、ルースの様子はいつも通りで拍子抜けした。今日も朝からずっと図書室に二人だけだというのに、ルースは相変わらず意地悪を込めた指導をしてくる。

 なぜ、ルースはあんなことをしたのだろう。

 アディの胸にはいまだにルースに抱きしめられた時の熱さが熾火のように残っていた。

(私ばかりどきどきしてばかみたい……)

 平然と次の資料を用意するルースを見ながらアディは、自分だけがルースの態度に振り回されているとわかって腹立たしくなる。それならこっちも気にしないでおこうと決めて、アディは大きく深呼吸をした。

「そういえば、こちらの王宮にアクトンという方はお勤めではないですか?」

 居心地の悪い沈黙に、アディは前から聞いてみたかったことを問いかける。