不思議……。ずっと玄関先には陸人が待っている記憶ばかり残っていたのに、彼の姿を見て私の記憶はすり替えられていくよう。

しばらく会えなくなっても、会社を出る際、いつもこの光景が蘇りそう。

そのためにもしっかり貴重な織田くんのスーツ姿を、目に焼きつけておこう。……いや、それよりも写真じゃない? 彼に気づかれていない今がチャンスだよね。

慌ててバッグからスマホを取り、スーツ姿で私を待つ彼を写真に収める。

「うん、よく撮れた」

撮った写真を見て満足していると、「こら」という声に身体がビクリと反応する。

顔を上げるといつの間にか目の前には織田くんの姿が。

「お、織田くん……!」

急いでスマホを背中に隠し慌てる私を見て、彼は困ったように笑う。

「人を待たせておいて、なに隠し撮りなんてしているの?」

「いや、これはその……」

なんて答えたらいいのやら……。困り果てていると織田くんはコツンと優しく頭を突く。

「写真なんて撮る必要ないだろ? ……これから先もずっと一番近くにいるんだから」

「――え」