わたしを見下ろす、世良くん。


世良くんのネクタイを見つめる、わたし。


さっきから、歩道に立ちっぱなしのわたしたち。


世良くんはわたしの肩を軽く抱くと……細道に、入った。


その手のひらに、近くなった体に、わたしの心臓はどきんと音をたてて。


「ねえ……どっち?」


また、わたしを見下ろす、彼。


世良くんは、どうしてもわたしに答えを求めたいようだ。


わたしがここで、『行かないで』と言ってしまえば……悲しむ人が、いる。


彼女でもないわたしが、勇気を出して告白しようとしている仲井さんを邪魔するなんてことは、さすがにできないし、したくないと思った。


だけどやっぱり……行ってほしく、ない。


これはわたしの素直な気持ちだ。


わたしは……『行かないで』と口にする代わりに──

彼のそでを軽く引っ張って、顔をあげて──。


「……自分から目を閉じるなんて…いつからそんな、大胆になったの?」


視界を閉じているせいで、彼の声は、よりいっそう鼓膜を震わせた。


緊張で、心ごと、震えた……。


数秒後……たった数秒だれけど、わたしにはとても長い時間に思えた。


だけど絶対、瞳を開けたくないと思ったの。


瞳を閉じてしまった以上、もう、自分の行動から逃げることはできないと思った。


視界の向こうで、世良くんが小さく笑った気がした。


それから、彼の顔が近づいてくるのが、雰囲気でわかって。


緊張しすぎて、まわりの音が、なにも聞こえなくなった。


視界も鼓膜も閉じてしまえば──唇に感じたその柔らかく生あたたかい感触が、一直線に、感じられた。

と、同時に、心臓がぎゅっとなって、ぶわっとなにかが溢れだした。


──7回目の、キス。


わたしははじめて、自分から彼のキスを求めた。