「せ、世良くん、カウンターに座ってなくていいの…!?」
だれか本を返しに来たり借りに来たりするかもしれないのに…!!
「大丈夫じゃない?」
まるで他人事みたいに言う彼。
少し珍しい。
世良くんってすっごく真面目な人かと思っていたけれど、そうじゃない一面もあるのかも…?
そういえば、保健室のときも授業に戻らずにソファに座ったままでいたし。
というか…、わたしと世良くん、今、完全な密室に、ふたりきり、だ。
そのことにはたと気がついて、全身の血液がグツグツ湧いてくる気がした。
どうしよう、まったく、集中できる気がしない。
だけど、わざわざこの場を設けてくれて、“帰る”なんて言えない…。
ここは維持でも集中しなきゃ…っ!!
集中集中集中集中。
そう思って取りかかっていると。
「…あ、ここ、間違ってるよ」
隣から、綺麗な声と指がやってきた。
びくりっと肩だけが少しあがる。
「ど、どこ…っ?」
「ここ。方式逆じゃない?」
そういってパイプイスごとすぐとなりにやってきた。
メグちゃんだったらこれくらいの距離当たり前なのに、世良くんだったらそれは別だ。
世良くんからしたらわたしのノートが見やすいかもしれないけれど、わたしからしたら、ほんとに集中できなくなる…。
やっぱり、わたしだけが、意識しすぎ…?
世良くんはあのときのキスなんて、いや、今までキスだってなかったかのような素振りでいる。
ほんとうに、彼がなにを考えているのかわからない。
目の前の数学より、難関だ。



