わたしはすぐに反省した。


そうだよね、こんなうつむいてボソボソ言ったって、まったく気持ち伝わらないよね…。


顔をちゃんとあげて、彼の瞳を見た。


彼もわたしを見ていた。


透き通るような綺麗な瞳に、一瞬言葉が出なくなった。


だけど、見つめている場合ではない。


見つめるというより、見とれるといったほうが正しかっただろうか。


とにかく、はやく言わないと。


「昨日はわたしの不注意で、
ごめんなさい…っ!
背中、痛かったよね…?」


決して彼の上にのったことや、唇を重ねてしまったことは恥ずかしくて言えなかった。それくらいは、許してほしい。


伝えたあとは、彼の瞳から喉仏あたりへと視線を落とした。


なぜなら、あのまま見つめあっていたら、その透き通るような黒い瞳に吸い込まれてしまいそうだったからだ。


世良くんはやっぱり、とても整った顔をしている。


これでわたしも、少しは彼の顔の特徴を述べられそうだ。


「たしかに、多少は痛かったかな」


彼はそう言って、軽く背中をさする動作をした。


わたしの申し訳ない気持ちが更に積もった。


「ほんとにごめんね…。
世良くん、甘いものは、好き?
おわびになにかわたしたいな…」


おずおずとそう伝えた。


そうでもしないと、わたしの気がおさまらないよ。


キーンコーン──


そのとき、授業が始まる5分前を知らせる予鈴がこの図書室でも鳴り響いた。


つまり、昼休みは残り5分ということ。


そういえば、次の授業は科学室に移動だ。


教室に教科書とノート、筆記用具を取りに行かないと。


さっきまで世良くんにおわびの話をしていたのに、わたしはつい、次の授業に遅れてしまうかもしれないことを心配した。


「世良くん。はやく教室に──」


言いながらその場から出入り口の方向へ足を一歩出したそのとき。


まるで“異空間”から“わたしと世良くんだけの空間”に引き戻すように、彼はわたしの手首をつかんで軽く引っ張った。


え?て思い後ろを振り向いたのもつかの間。


先ほど見上げていたはずの世良くんの端正な顔が目の前にあって、

なにも考える余地を与えられないまま、唇が重ねられた。


つい最近触れた気がするものが、そこには触れていた。


「おわびはこれでいいよ」


呆然と立ち尽くしていたけれど、サラリと告げたこの言葉だけは耳に届いていた。


彼の後ろ姿を視界にとらえると、その背中はだんだんと小さくなっていった。


…………今の…………なに?




──2回目のキスは、

どうやらおわびのキス、らしかった。