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「るみ。おれがずっとそばにいるからね」


そう言ったのに…約束守らなくて、ごめん。瑠美。


高校を卒業して、大学のためにこの街を引っ越した瑠美。


だけど俺たちの関係は変わらず付き合っていた。


だから高校に入って何度か告白を受けたけれど、当然、すべて断った。


この先きっとだれに告白されたって、俺は瑠美のそばから離れないって、本気でそう思ってた。


その気持ちが、償いのためだとしても…。


──まさか、自分のほうから、好きになるなんて。


事故で、一瞬だけクラスの女の子と唇と唇が触れた。


俺からすればたったそれだけのことなのに、その子はりんごみたいに顔を真っ赤にして去っていった。


…なにあれ…。


今まで告白してきた子たちも、真っ赤な顔してたけど…

そのときはじめて、瑠美以外に可愛いという感情を持った。

それが胡春だった。


あの顔がまた見たいと思った。


また、あの子にキスしたいと思った。


気づいたら……胡春のことを好きになってた。


胡春以外、キスしたくないと思った。


俺と胡春のことを受け入れて、送り出してくれた瑠美には本当に感謝している。


俺も瑠美には、一番に幸せになってほしい。


ただ…俺が幸せにしてあげたいのは、胡春なんだ。




「…あのさ、」


春休みに入ってしまう前に、俺は胡春の親友である吉田に聞きたいことがある。


いつもメグちゃんメグちゃんと胡春はよく吉田の話をしてくれる。


仲がよすぎて少し妬けてしまうほどだ。


教室に胡春がいない隙に、俺は吉田に話しかけた。


「なに?」


吉田は胡春とちがってクールな印象だ。


「胡春って今、なにがほしいとか言ってなかった?」


4月10日は胡春の誕生日。


その日は日曜日だから、デートをしようと思う。


プレゼントになにをあげようか考えたけれど、もしなにかほしいものがあるなら、とひとまず吉田に聞いてみることにした。


クールだと思っていた吉田の顔が、少しだけにやりとした。


そして教えてくれた。


「…胡春のほしいものはわからないけど、胡春は──」


胡春には夢があるらしい。


それは…


チューリップ畑の真ん中で、恋人とキスをすること。


なんて胡春らしいんだ。なんて可愛らしいんだ。


しかも、まだ叶えられていない夢。


俺が叶えてあげたい。


そのあと俺はさっそくチューリップ畑がある場所を調べた。


俺は今まで、3つ年上の瑠美に合わせて少し大人ぶっていた気がする。


……俺、こんなウキウキして、全然子どもだな。


そんな自分も悪くないと思った。


胡春の誕生日が、今から楽しみだ。


きっとすごく喜んでくれる。


プレゼントもはやく探さないと。


──俺はこの先、胡春のためならなんだってやれる気がした。



end