「…胡春、好きだよ……」


そう言って大きな手のひらで頭を優しく撫でてくれる。


“好き”という言葉は……あの資料室で聞いた以来だった。


あれから約1ヶ月、世良くんの気持ちが変わってしまうんじゃないかとひとり不安になる瞬間もあった。


だからこのとき、はじめて心から安心した。


「わたしも世良くんが好き……」


世良くん、大好き……。


その気持ちを込めて彼の背中に腕をまわして抱き締めた。


「…名前で呼んでくれないの?」


頭上から聞こえてきた、質問。


かと思ったら、少し体を離して、目を合わせてくる。


「恥ずかしい……練習するからもう少し待って」


だって、これまでずうーっと世良くん、だったもん。


いきなり匠くん、なんて……呼べないよ。


「練習って。ほら、今、練習してごらん?」


「そ、そんないきなり…」


「胡春」


「…っ」


世良くんに名前を呼ばれると、自分の名前が急に花が付いたみたいに咲き誇る。


好きな人に名前を呼んでもらえるだけでこんなに幸せなんて。