資料を持つ手が震えそうになった。思わず落としてしまいそうだった。
自分の耳を疑った。
世良くん、今、なんて…?
「…西埜、こっち向いて」
世良くんの声が、さっきよりすごく近くなった。
さっきから寒かったせいで、温もりが近づくと、すぐにわかってしまう。
「ねえ」
「……」
向けるわけ、ないでしょ…。
わたしたち、あのクリスマスの夜に──サヨナラ、したでしょう?
「向かないと…キスするよ」
「…っ」
ずるい。そんなこと、言うなんて…。
目線を下げたまま、体を世良くんのほうへと向けた。
目なんて合わせられない。
ドキドキが止まらなくなるって、わかってるから。
「……俺、瑠美と別れた」
世良くんは、驚くべきことを告げた。
「え……?」
衝撃的だった。思わず目線を少しだけあげてしまう。
でも…わたしは嬉しい気持ちには、なれなかった。
「瑠美さんは…納得、したの…?」
到底そうは思えなかったからだ。
今でも頭に浮かぶ、あの瑠美さんの傷ついた顔。
そんな簡単に、納得するわけないって思った。
「……」
そしてやっぱり、世良くんからの返事はない。
「それって…別れたって言わないよ」
世良くんのほうが恋愛経験者で、わたしは恋愛初心者だけど。
そんなの“別れた”って言わないんだよ。



