「お母さん、若い男と一緒だった。」

「職場の人じゃないの?」

「スーツケース…………持ってた。」

「出張とか??」

「………………私もそう思ったけど………
何か気になって………職場に電話してみた。」

あちゃ。

結果は聞かなくても分かる。

この涙が答えだ。

ここの親は……何を考えて生きてるんだ?

自分の快楽のためか?

彼女の親を悪く言いたくないが………酷すぎるだろう。

父親の次は母親って…………。

何故、尋ばかりが見ないといけない?

イライラしそうになるが、今は彼女の気持ちを落ち着かせることが先だ。

泣きたいだけ泣いたらいい。

震える背中を擦り続ける。

「お母さん、有給取ってるって。
私の面談には………取らなかったのにね…………。
どうして子供を作ったのかな?」

「きれいごとを言うつもりはないよ。
そんな事を言っても………尋が傷つくだけだから。
子供よりも……自分が大切な親もいる………。
俺の親も似たようなものだって……言ったことあるよな?
父親は……物心ついた時にはいなかった。
正直、記憶にある男が父親かどうかも分からない。
最後見かけたのは、3歳くらいだったと思うけど。
母親は………男に貢いでは捨てられて……を繰り返して………
俺は、親の愛情を感じずに育った。
こんな俺だから…………
尋みたいに親に期待したことがなくて
裏切られたように感じてる尋の気持ちを………
ホントには理解出来てないのかもしれないけど。
辛くなるなら………親を捨てるつもりで付き合え。
別に、縁を切れとは言ってないからな。
ただ……親だからと期待しても……応えられない親もいる。
愛情は、俺がいくらでも注いでやる。」

俺の言葉が、どれくらい届いたのかは分からない。

相変わらず泣き続ける尋を、ただ抱きしめて一人じゃないと

覚え込ませる。

「ねぇ、先生。
私って………生まれてきて……良かったのかな?」

「尋………俺は女に手は上げないけど……
そんなこと言ったらぶっ叩くぞ。
生まれてこない方がいい命はない。
生まれてきた価値は、親や周りが決めるものじゃない。
自分自身で見つけるものだ。
お前は…………俺が生まれてこなければ良かったって思うか?」

俺の質問に、ようやく我に帰ったみたいで…………

顔を上げると………真っ直ぐに俺をみつめて………首を振った。