食事を終え、僕は皿を洗うために調理場へと向かう。店長は、熱い番茶を飲みながら、今日も、いい朝になりそうだ。などと言っているが、朝の爽やかな空気を台無しにしておいて、よく言えるものだと感心してしまう。

「やれやれ。」

 黙々と皿を洗っていると、他の従業員達が店に到着する。個人経営の店舗なので、従業員の数は少ない。だが、皆が長い付き合いなので、お互いのチームワークは完璧だ。

「おはよう。」

「あ、おはようございます。」

 一番最初に来たのは、先輩のコックだった。ふと見ると、菓子の入った紙袋を持っている。

「おう、ガスの元栓は開けたか。そこの皿を洗ったら、元栓開けて、ガスに火をつけとけよ。俺は、店長に挨拶してくるから。後でお前にも、新潟の土産を渡すから、楽しみにしてろよ。」

「分かりました。」

 多少、言葉は荒っぽいが、仕事の教え方は丁寧な人だ。昨日は定休日だったので、旅行に行って来たらしい。

 それから少しして、店の外に車のエンジン音が響き渡る。ウェイトレスが店に着いたようだ。彼女は自家用車で通勤しており、愛車は二人乗りのオープンカー。レモンのような黄色いボディは、実に良く目立つ。

「おはようございます。後で、お土産渡しますから、楽しみにしていて下さいね。」

「あ、はい。」

 反射的に返事をしたが、彼女は何も持っていない。どんな土産を持ってきたと言うのだろう。少し、楽しみにしながら、彼女が戻ってくるのを待っていると、店長が僕を呼びつけた。

「おーい、ちょっと来てくれ。せっかくの土産だ、手を休めて茶を飲もう。」

 そう言われた僕は、水道の蛇口を捻って水を止め、店長がいる部屋へと向かった。

「あ、私も行きますから。」

 その声を聞いていたのか、後からウェイトレスがついて来た。しかし、土産を持ってきたと言うのに、手ぶらで来るのは不自然だ。そう思いながら部屋に着くと、そこには、先輩が持ってきた菓子の箱が置かれており、すでに店長が、中身を取り出していたが、僕には、それがどのような菓子なのか、判別が付かなかった。