ちなみに、今朝の献立はラーメンではなく、野菜炒めと味噌汁だ。茶碗に御飯を盛り、小皿に梅干を乗せ、簡単な朝食を作り終えた僕は、それをお盆に載せ、店長のいる所へと運ぶ。

「お待たせしました。」

「おう、朝は和食に限るな。」

 カレー屋の経営者として、それを言うべきでは無いだろう。と思ったが、それを口に出すことはせず、僕たちは黙々と食事を始めたが、店長が、小皿に乗せた梅干に箸を伸ばした所で、急に、こんなことを言い出した。

「ところで、漬物の『たくあん』ってあるよな。あれを出すときは、二切れだけ出すのがマナーのようだが、どうして二切れなのか、答えられるか。」

「ええ、知っていますよ。二切れ以外は、縁起の悪い言葉になります。」

「そうだ。三切れは、身斬れ。身を斬れと言うのは、切腹を連想する言葉だ。だが、言われた側はどうなる。今日は、そのことについて考えてみよう。」

 そう言うと、一旦箸を置いた店長は、実に嬉しそうな表情を浮かべながら話し始めた。

「一切れは、人を斬れ。やたらめったら斬っていたら、刀の手入れが大変だ。」

「三切れは、身を斬れ。さっきまで人を斬っていたのに、今度は自分を斬らねばならん。刀の手入れも済んでいないのに切腹だ。これは実に忙しい。」

「四切れは、余を斬れ。はい、そうですか。と斬ってみろ、後が大変だ。例え切腹途中でも、言われたからには斬らねばならぬ。当時の武士は大変だな。次から次へと斬るのだから、剣術の修行に余念が無かったのも頷ける。」

「五切れ以上は、多すぎる。と言われた所でまとまるが、それだけ斬れば十分だろう。しかし、肝心の二切れも、蓋を斬れ。と言う言葉につながるじゃないか。」

「蓋を斬られたら大変だぞ。風呂の湯は冷める、土鍋の中のおでんも冷める、煮物を作る時の落し蓋が割れる。現代に戻って考えてみろ、飲みかけのペットボトルの蓋を斬られたら、栓をすることができなくなるぞ。」

 下らない話を終え、満足気に梅干をつまむ店長に向けて、アンタは何を言いたいんだ。と言いたくなってしまう。だが、そう言ったところで直るはずが無い。

 こうして、爽やかな朝の空気は、人斬りや切腹の話題で真っ赤に染まり、いつもと変わらぬ朝が始まった。