意識が途切れる前に聞いた声が、背後から聞こえた。
振り返ると、下半身にバスタオルを巻いただけの皆川社長が立っている。

「あ、あの、私、すみません」

「ん?何が?」

「ご迷惑をかけて……すぐに、帰ります」

視線を合わせることも出来ず、素早く頭を下げると、私は急いでパンプスを履き、扉に向かって歩き出した。

「いやいや、待ってよ」

「きゃっ」

「このまま帰すと思う?」

出て行こうとする私の腕は、皆川社長によって、痛いくらいに掴まれた。
自分の行動の全てを、今になって後悔する。

「は、離してください」

「無理だよ。てか、今更じゃない?散々高いワイン飲んでおいて、俺置いて帰るつもり?」

「それは、」

「もうこんな時間だし、泊まっていきなよ?」

腕を掴むのとは反対の手が、私の腰に触れる。
早く、ここから逃げないと。

「家崎さん、俺と居て悪い気はしてないでしょう?」

「皆川社長、今日はとても楽しかったです。でもこれ以上は困ります」