「え?」

「二人はまだ出逢って間もなくて、まして付き合ってもいないんだから、それが普通でしょう?むしろ、芙美ちゃんを目の前にして、キスだけで我慢したなんて、その人すごく紳士的でまともだと思う!」

「でも、あの人には彼女が、」

「彼女がいるのは、本人に言われたわけじゃないでしょう?」

「言われてないけど、いないわけないよ」

「そんなに気になるなら聞いてみたらいいのに」

「それは……」

里香の言葉に、返す言葉がなくなる。
自分が凄く子供っぽいことをしている気がして、恥ずかしくてカッコ悪くて、全然余裕がない。
はっきり聞けばいいだけなのに、その勇気もない。
溜息がテーブルに落ちていく途中、それまで黙っていた男が口を開いた。

「でも、意外ですね。家崎さんってもっと積極的なのかと思いました」

「……」

「そんなことないよ、野瀬君!芙美ちゃんってこう見えて純粋なの!」

「へー。すごくモテるって有名だから、どんな相手でも怯まないと思っていました」