4.悪魔さまの囁き

「ねえ、芙美ちゃん。何かあった?」

「別に何もないけど」

「嘘。何かあったでしょう?」

「だから特にないって」

「それなら仕事しよう、芙美ちゃん?」

「・・・無理」

「もーしっかりしてよー」

そう言いながら、里香が私の肩を揺らしたのは金曜日の午後のことだった。
私のどうしようもない憂鬱は、まさにピークを迎えようとしていた。

「芙美ちゃん、今週ずっと変だよ?どうしたの?」

来週に控える新社員オリエンテーションの打ち合わせのために訪れた人事部のミーティングルームには、私と里香しかいない。
去年に引き続きオリエンテーションを担当する里香との打ち合わせに来たわいいけれど、開始から30分が経過しても、一向にやる気が出てこない。
本当に、どうかしている。

「出来れば今日を迎えたくなかった」

「え?」

「朝から気分は最悪よ」

「芙美ちゃん、もしかして嫌だったの?」