2.王子様と雨宿り

「お、終わったー」

「おー家崎おつかれー先に上がるぞー」

「え?部長!?」

「今日は家族デー」

ひらひらと手を振ってデスクの横を通り過ぎっていった部長の言葉に、私は慌てて顔を上げて周りを見渡した。

「最悪。また最後だ」

いつの間にか同僚たちは帰ったらしい。
一人残されたフロアで溜息を吐き、素早く帰り支度をする。

6月のとある水曜日。

週の真ん中でもある今日は、理由もなく憂鬱だ。
パソコンの電源を落として席を立つと、もう誰もいないフロアの灯りを消す。
静かな廊下を進み、エレベーターの前に着くと、下り用のボタンを押して、手元の時計を見る。
時計の針は既に7時を過ぎている。
買ったばかりのパンプスが履き慣れなくて痛い。
エレベーターに乗り込み一階へ向かう途中、ガラス越しに見えた外の光景にまた溜息が零れた。

雨だ。最悪。
だから梅雨って嫌になる。

一階に着くと、奥にあるレストランが今日は何だか騒がしい。何かの集まりだろうか。