「お電話ですよ」

軽く揺すってみるが反応はなく、だけど電話も鳴り止まないから困ってしまう。

「起きてください、椿社長」

さっきよりも声を大きくすると、漸くその目が開けられた。
寝起きのくせに、憎いほど整った顔だ。

「ん、おはよう」

いつもと違う擦れた声に、心臓が不意を突かれたように飛び跳ねる。きゅんとする。

「おはようございます」

「芙美」

大切そうに私の名前を呼んだ男の手が、優しく頬に触れる。
ドキドキして、朝からどうにかなりそうだ。

「あ、あの、電話が……」

だけど本題を忘れてはいけないと思い伝えると、椿王子はベッドサイドのテーブルに置かれた携帯を見た。

「さっきからずっと鳴っていますよ」

「ああ」

面倒そうに顔を顰めながらも、腕を伸ばして携帯を掴む姿を見ていると、引き締まった裸体が目に入る。
私は慌てて視線を逸らした。

「……タイミング悪過ぎ」

「え?」

電話の相手を確認する為に携帯の画面を見た椿王子は、そう呟いた後で「もう帰ってきたのか」と続ける。