9.悪魔さまの情愛

「話の続きをしようか?」

真っ直ぐに私を見下ろした男が、そう言いながら頬に触れる。流れた涙を拭いながら、この華やかな空間から二人だけを切り取るみたいに、ただ真っ直ぐに私を映す。

「あの、私……」

「昼間の電話より、随分勢いがないな」

「それは……」

「ん?」

そんな優しく見つめないで欲しい。
私は、勝手に誤解していたかもしれないのに。

「椿社長に聞きたいことが」

「聞きたいこと?」

「……皆川社長を、ご存知ですか?」

恐る恐るその名前を口にすると、ほんの一瞬だけ椿王子が眉を顰めた。それから考えるように視線を逸らして、諦めたような溜息を吐く。
どうしてだろう。
嫌われたくないと、今強く思う。

「知ってるよ。この前会ったばかりだから」

再び私へと向けられた視線が、さっきまでとは違い、怒って見えるのは気のせいではないだろう。

「それってもしかして、私に関係ありますか?」

嫌われたくなくて、続きを聞くのが怖いと思う反面、期待している自分がいる。