あまりの衝撃に抵抗も出来ない私の口内を、熱い舌がなぞる。さっきのチョコレートがまだ残る舌が絡まる音。

「甘っ」

そう言って唇を離した男は、満足そうに目を細める。

「な、な、なにして」

「言ったよね?バレンタイン」

こんなの、ありえない。

「なんなんですか、あなた!?」

「だから、椿王子」

身長差のせいで見下ろされる形になるのが悔しい。
漆黒の髪に負けない、黒い瞳が鋭く光る。
身を包むブラックのタキシードは良く似合い、男の魅力を最大限に引き出している。
会場中の女性の視線を集める、美しい顔の男。
その姿は、王子様よりも・・・

「悪魔」

「ん?」

「いえ、独り言です」

わざと睨み見れば、その顔が再び近づく。
素早く両手で唇を隠した私を、椿王子が目を丸くして見た。
それから、その口元を静かに緩めると、

「これからよろしくね、芙美ちゃん」

悪魔さまが、私に甘く微笑んだ。