選んだ先は牢獄の中

「おはよう。今日も朝早くからありがとうね」
「おはよう。おっ。今日はパンケーキか」
朝食の支度が終わったのとほぼ同時に両親がダイニングへ来た。
今日も5人の連係プレーに狂いはなかったようだ。
それぞれ両親に挨拶をして、食卓に座る。
晩御飯を一緒に食べれない分、朝ごはんの時間はほぼ全員集合できるため、貴重な家族の団らんの時間だ。
この時間では大抵、最近学校はどうだ?とか、職場や学校の愚痴、兄妹であった事を話している。
それは今日も変わらず、兄妹の話題で盛り上がっている。
早速、陸斗が怖がっている妹達の為に、Gの退治を買って出たものの、いざ実物を目にするなり甲高い悲鳴を上げながらスプレーを半狂乱になりながら撒き散らしていたのを、助けてもらった一人、陽向に暴露されている最中だ。
暴露された本人以外は「食事中にGの話とかしないの!」と言いつつも大爆笑している。
陸斗は誤魔化すようにパンケーキを口に運んでは、頬を緩ませていた。気に入ってくれたようで何より。
「ねー。りくにぃにぃ面白いでしょ!あ、そうそう!今朝さぁ、またゆうにぃにぃとねぇねぇがイチャイチャしてたんだよ!ホントお似合いだよね~」
なーにを言い出すんだこの末っ子は。
「もう陽向ったら…そんなの皆分かってるでしょ。ちっちゃい頃から付き合ってるようなものじゃん」
母さん!?
それに何で皆も頷いちゃってるの!?
「早く孫の顔が見れちゃうかも~」
「…由宇、お前にだったら早百合をやってもいいぞ…」
「ホント仲良すぎ。いつも見てて胃もたれがするし」
「さゆ、兄さんに幸せにしてもらうんだぞ」
「え?もう幸せだよ?」
「「「既にデキてる!?」」」
「お前らァ!!」
家族全員で洒落にならない冗談を言われ、更には早百合本人の口から既成事実のようなものを上げられ、穏やかだった食卓から一変、一気にざわめきに包まれた。
早百合は恐らく、陸斗の言った言葉の意味を理解していない。
早く誤解を解かねば。
「さゆ、多分皆誤解してるから、具体的に言おうな」
「誤解?どの辺が誤解なの?」
「「「やっぱり…」」」
「違う!断じてそれはない!さゆはりくの言葉の意味を理解しきれていないだけだから!」
「理解してる!つまり、由宇お兄ちゃんはいつも遊びに連れていってくれたりするし、優しくしてくれたりするけど…それは由宇お兄ちゃんだけの話じゃない…ってそういう話でしょ?」

…ポカーン…

ほら見ろ。全然理解していないじゃないか。
元から恋愛に興味を示さない早百合は、けっこうこういう方面の話には鈍く、聞けば毎回ちんぷんかんぷんな答えが返ってくる。
早百合が中学校1年生の時、人生初の告白をされた早百合の返事は「私も好きだよ。でも、何に付き合えばいいの?」と、好きの意味、そして付き合うという意味を完全に履き違えたもので、当然相手の男は玉砕。
その話を聞いた俺は「ざまぁみろ」と思ってしまった。やっぱり俺は最低な兄だ。
後にその話はもれなく、次の日の朝ごはんの時間の話のネタとなった。
「ごめん。言う相手を間違えた」
「そりゃ、さゆにはまだ早い話だよな」
「まぁそう遠くもないうちに、ねぇねぇも分かるようになるって!…多分」
妹の陽向にもそう言われるのだから、やはり早百合の鈍感は本物だ。
お陰で俺からの想いも気付かれてないから、早百合が鈍感で心底良かったと個人的には思っている。
いや良かったのか…?いやいや。良いに決まってる。
俺からの想いに気付かれたら、今まで良い感じに気づいてきた、早百合どころか家族皆との関係が危うくなってしまう。
仮に両想いになれたとしても、付き合えばきっと、家族との関係どころか、近所や友人からの目が早百合を苦しめる事になるだろう。
それに、既に早百合には俺が早百合を諦めるにうってつけな相手がいるのだ。
二人は付き合っていないが、相手は俺達の幼馴染で、俺の中で唯一早百合を任せられる男だ。
他の3人も共通で、通最終決定権は本人にあるが、彼らを守るためにも何処の馬の骨とも知らない奴に俺の可愛い妹や弟とお付き合いすらしてほしくない。
過保護すぎるのは承知している。でも、彼らに精神的に辛い思いをさせてはいけない。
その為にも、早百合はできればあいつに幸せにしてもらいたい。
…とはいえ、こんな感じで早百合は恋愛感情が皆無に等しい。
だから、今朝のように早百合は未だに兄と一緒に寝ていても恥じらいを感じないし、あいつとも幼馴染終いなのだ。
俺と同い年のあいつは来年から大学生で、お互いの時間を取るのが難しくなるから、今年はちょっと作戦を練っているのだ。
早百合とあいつが付き合えば、俺からも自然と離れるだろうし、そうすれば俺だってけじめがつく。
今年こそは早百合からちゃんとけじめをつけないと。