ピンポーン

呼び鈴を鳴らす。
すぐに大家さんは出てきた。

「遥香ちゃん...」

「今までご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

腰を追って丁寧にお辞儀をする。

「頭を上げて」

「でも...」

「いいの。ごめんなさいね。もっと早く助けてあげられなくて。ちゃんとした証拠がないと警察もきっと動いてくれないから...」

「ありがとうございました。いままで、お世話になりました」

「出た行くの?」

「はい」

「行く宛は?」

「友人の家に泊まろうと思います」

嘘だ。そんな親しい友達なんていない。
行く宛はなくはないけど、迷惑と言われるのが怖い。
お父さんと遥斗に、拒絶されるのが怖い。
そう思ったと時、私にもまだそう思う心があったと驚いた。

「あの、私じゃあアパートの契約切れないですよね」

「そうねぇ、せめて保護者か...大人がいれば... 」

「そうですよね。わかりました。また来ます。部屋のものを処分しておいてほしいんですけど...」

「任せなさい!」

「ありがとうございます。あとこれ...買ったんですけどいらないのでどうぞ」

そう言って食材の入った袋を渡した。

「いいの?でも、お金は...」

「ごみ処理をしてもらうお代だと思ってください。それじゃあ」

「頑張ってね。きっと、幸せになるのよ?」

そう言って、私の頭をなでてくれた。

「はい。ありがとうございました」

ニコリを笑って軽く会釈をし、その場を離れた。
私は、ちゃんと笑えていただろうか