ミーンミーン……


セミがどこかでうるさくお歌を歌うなか、
僕はバタバタといそいでいた。


セミが歌を歌っているなんてことは、
僕にはわからないけどね。


ついさっき、幼稚園から帰ってきた僕は
着替えを済ませたあと、
すぐにまた、玄関へとペタペタ走る。


うん、セミの大合唱になんか負けてない。


お母さんの好みで茶色で統一された
僕のおうちの玄関。


僕はそこに座りこんで、
ついさっきぬいだばかりの青い靴じゃなくて、
その横にきれいに並べられてあった
涼しい空色のサンダルに、小さな足をいれる。


走ってもぬげないように、
マジックテープをふたつとめれば準備完了。


『おかあさん、いってきます』


もうすぐで1歳になる弟の空羽を
抱きかかえているお母さんにそう言うと、
僕はいそいでドアに手をかける。


『信号を渡るときは、ちゃんと手を上げてね?
それと、海にはぜったいに
入っちゃダメだからねー!』


何度も聞いたお母さんの言葉に、
「はぁーい」と大げさに大きな声で返事をして
家を飛び出す。


「大空!……っもう、
ちゃんとわかってるのかな……」


うしろからは、お母さんの声。


お母さんってば、
もう僕、お兄ちゃんになったんだよ。