先ほどまで降っていた雨よりも冷たい空気が……棒立ちになるわたしをまとった。
せめて雨が降っていたら、今この場はこんなにも静寂でないのに。
遥斗があんなふうにはたから見ても分かるほど本気で不機嫌になっているところを、わたしは初めて見た。
“だまれ”なんて言っているのを、初めて聞いた。
遥斗はクールな性格で、そこまで愛想はよくないけど、今までだれかのことをあんなふうに言っていたことはなかったのに…。
…そんなにわたしが約束を守らなかったことが気に入らないんだ…。
謝らないと…。
「…あの…遥斗…、約束破ってごめんなさい……」
喉の奥から、なんとか声を絞り出す。自分じゃないみたいに、弱々しい声しかでない。
遥斗のことは見れなくて、うつむいてスカートをぎゅっと握りしめた。
「──きゃっ」
視界の隅からいきなり遥斗の手が伸びてきたと思ったら、手首を捕まれて靴下のまま玄関まで下ろされ、
──だんっ
わたしを壁に追いやり、その拳でわたしの頭上の壁を叩きつけた。
わたしは今目の前に立っているのが本当に遥斗なのか、わからなくなった。
こんな乱暴な遥斗だって、見たことない。



