「これ以上いるとマジで殺されそーなんで、俺はさっさと退散しまーす」


さっきとはまた違う笑いを含んだ口調で竜はそう言うと、玄関のそばに置いていた自分のカバンを手に取り、端に脱いだスニーカーに慣れたしぐさで足を通した。


「あ……っ…竜………ごめんね」


せっかくカラオケに行って楽しい気持ちだったのに。

わざわざ鍵を届けてくれたのに。

竜はなぜか笑ってるけど……遥斗の態度に、絶対いい気はしてないよね……?


外から雨の音は聞こえない。

もう止んだようだ。

通り雨だったのであろうか。


「えーみ」


わたしの申し訳ない口調とは相反してえらく優しい口調で名前を奏でられ、手招きされた。

不思議に思いつつ、竜の前に近づく。

いつもは竜のことを見上げているけれど、今の目線はだいたい同じ高さだ。


「またふたりでカラオケ行こうな?」


また同じく優しい口調でそう言って、頭をぽんぽんと撫でてきた。


軽く頭に手を置かれることはあっても、そんなふうにゆっくり撫でられたことは今までなかったから違和感を感じながらも、「うん、行こうね」と頷いた。

そして竜はこの家を去っていった。