「──おい」
低い低い、声。
その声にびくりと肩があがり、脱衣場に向かう足が止まり………後ろを振り返った。
遥斗がものすごく不機嫌なオーラを出して………こちらを……わたしと竜のふたりを、見ていた。
え……どうして呼び止められたの……?
わたしはバスタオルを取りに行こうとしただけなのに……なんでそんなに、不機嫌なの……?
押し掛けてきたのは遥斗のほうなのに……。
「なんでその男がここに居るんだよ」
先ほどと同じく、とてつもなく低い声に……冷たい瞳に……わたしは喉が詰まったかのように息が苦しくなった。
そうだ…わたしは遥斗から、“俺以外の男をこの家に入れるな”と言われていたんだ。
すっかり忘れてしまっていた。
だけど………竜をこの家に招いたのは、ちゃんと理由がある。
だからわたしはわるくないはずだ。
説明すれば、遥斗もわかってくれるはずだ。
それなのに………言葉が出てこない。一言目も。
「なんでお前にそんなこと言われなきゃならねーんだ?ここはお前の家じゃなく、笑の家だろ?」
挑発的に、力強く。
わたしには到底できなかった反論を、隣に立っている竜が代わりに言ってくれた。
もちろん、わたしは挑発したいわけでも反論したいわけでもない。
ただ納得してほしいだけだ。
だけど………遥斗に“例外”はなかったみたい。



