わたしはさっきみたいに月を見上げて、眺めて、ただひたすら眺めて……。


だって……月以外に、どこに目線をやっていいのかわからない。


遥斗のことが、見れない。


遥斗、どうして出てきてくれたの?


遥斗、ちゃんと覚えてたの?わたしと毎年、ストロベリームーンを見ていることを…。


わたしのこと、嫌いなくせに。冷たくするくせに。


………百合ちゃんが、いるくせに。


どうして今夜は………わたしのところに、来てくれたの?


…………なんて、聞けないよ…。


聞いてしまえば、うっとうしがられる、気がして……。


百合ちゃんみたいな、大人っぽくて品のある子が、好みなんだよね…?


わたしみたいにぎゃーぎゃーうるさい子は、嫌いだよね…。


そんなマイナスな考えばかり浮かぶ反面──遥斗が今ここにいることが、わたしは嬉しくて仕方がなかった。


──これで、4回目。


遥斗とふたりきりで、ストロベリームーンを眺めるの。


うれしいな……ほんとにうれしい。


今年は絶対、ひとりで見ることになると思っていたから…。


去年までみたいに言葉は交わしていないけど──遥斗とふたりでいるだけで、すごく幸せだ──……


「……なあ、こっち来いよ」


赤い満月だけが浮かぶ、安らかな夜空で。


遥斗の声が、静かに宙を舞った。