………もう、月を眺めるのはよそう。


これ以上眺めたって、遥斗のことしか頭に浮かばない。


そして、苦しくなる。


月を見て、こんなに苦しくなるなんて………月に失礼だ。


ただ純粋に、綺麗だと、月も思ってほしいはずだ……。


わたしは自分の部屋に戻ろうと、月に背を向け、窓に手をかけた………そのとき。


ガラガラ……


わたしはまだ、窓を開けていないのに。


窓を開けるその音が、突然耳に飛んできた。……後ろから。


………………え?


聞き間違いだと思って後ろを振り返ると…………向かいのベランダに、遥斗が立っていた。


遥斗がベランダに、出てきていた。


自分の耳がおかしいのかと思った。


自分の目がおかしいのかと思った。


息をするのも…………忘れた。


遥斗が、今日、この夜に、出てくるなんて………。


「…もう、入るのか」


遥斗の口が小さく開いた。


わたしにはそれが口パクに見えた。


だけど、遥斗の声はたしかにわたしの耳が拾っていた。


驚きすぎて…わたしの機能が正常に同時に働かなくなったのだ。


──返事、しないと。

わたしの口、ちゃんと働いてもらわないと困る。


「…う、ううん…」


つぶやいて、首を横に振るので精一杯だった。