わたしがすべてを済ませて自分の部屋にようやく入れたのは、9時を過ぎた頃だった。


パジャマの上に、部屋着であるパーカーを羽織って、わたしは窓のカーテンを開け、次にベランダへと続く鍵を開けた。


ガラガラ…


サンダルに足を通し、ベランダに出ると、生ぬるい空気がわたしを包み込んだ。寒くなくてよかったとほっとする。


こうしてベランダに出るのは布団を干すときくらいで、それ以外は出たことがない………年に一度しか。

その一度が……今日なのである。


「………わあ……」


空を見上げると………思わず感動の声が漏れた。


わたしの瞳に映る、綺麗なストロベリームーン──。


黒くて青い夜空に溶け込むように、だけど存在感はたっぷりと……。


一年ぶりに見たその赤い満月は、相変わらずとても綺麗だった──……。


そう、なにも変わらない……すごくすごく、綺麗なままだ。わたしがこれまで見てきたストロベリームーンとなにも変わらない……。


だけど今年は………わたしが──、ちがう。


わたしの心がちがうんだ……。


月を見て綺麗だと思うことはあっても、泣きたくなるなんてこと、今まではなかった………。


向かいの窓に目を向ける。

閉ざされた窓。閉ざされたカーテン。

中の様子はまったくわからない……。


やっぱり遥斗は、今日のことなんて覚えてないんだ……。


中2のときから、ずっとふたりで観ていたのに……。


………頬が濡れていて……自分が泣いていることに、気づく。


涙を流すのなんて、いったいいつぶりだろう。