「笑ちゃん、大丈夫っ!?」


優香がすかさず心配の声をあげる。


「うん、大丈夫、ごほごほっ」


クッキー1枚でこんな咳込むわたしって。


「おいおい~。ほら、水筒」


竜は呆れながら言いつつ、机に置いてあったわたしの水色の水筒を手渡してくれた。


「ありがと」


ごくごくとお茶を飲んで、残った欠片を胃に流し込む。


「ふう、生き返ったー!!」


「まったく、馬鹿だな~」


「元はといえば竜のせい!」


「はあ~?笑がどんくさいだけだろ~?」


「あー!!そんなん言うんだったらもう英語の和訳見せてあげないからあ~!!」


「あっ。それはだめだ!見せてくれ!!」


「やだねーっだ」


竜とはよくこうやって楽しく言い合いこしている。優香もそれを見てうふふと笑ってる。


「じゃあジャンケンな!俺が勝ったら今日の和訳見せろよ!!」


竜は英語が一番苦手で、アルファベットを見るのも嫌らしい。

だからわたしは仕方なく英語の宿題をよく見せてあげている。

その代わり、ほかの科目の宿題を見せてもらったりと、お互いさまなのだ。


「ジャンケン~!?それじゃあ、3回連続で勝ったらいいよ!」


「そんなの余裕だっつーの!」


「1回でも負けたらジュースね!」


「ちょ、それはなしだぞ!!」


「あははっ──」


ジャンケンをするために軽くこぶしを作って竜の前に出したけれど、わたしの手は……力が抜けたみたいに、ゆっくりと落ちていった。


わたしの口から、表情から……笑みが消えていった。


なぜなら、それは………。


………なんでここに…。


──なんでここに、遥斗がいるの?


わたしのクラスに突然入ってきた、クラスのちがう遥斗。

まわりのクラスメイトは、遥斗に目をやっている。

それは、ほかのクラスの生徒がこの教室に入ってきたからではない。遥斗だからだ。

遥斗だから、一際目立っている。

かっこよくて、背が高くて、とあることが一番の遥斗。

遥斗の存在感はすごいと、改めて感じさせられた。


わたしから一瞬にして笑みが消えたのは、ただ遥斗がなぜかここにいるからってだけじゃない。


遥斗がすごく冷たい表情で……わたしを見ているからだ。