リビングに戻り、遥斗にお父さんの羽織を貸したのはいいのだけれど…
わたしは右手でTシャツを持ち、その右手は前に出すことができるけど、ジャケットを持った左手は、うしろに隠した。
わたしの変な様子に遥斗も気づいている。
「あ、あの、遥斗…」
“なんだよ”という顔の遥斗。
すごく言いにくい。言う前から怖い…。どうしよう、絶対怒られる……。
「なんだよ」
わたしがいつまでもジャケットを隠しているからか、次こそ口に出した遥斗。
隠していても、どうしようもない。
ここは正直に言って謝らないと…!!
「遥斗ごめん…。Tシャツは綺麗に落ちたんだけど、ジャケットが……」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、遥斗の前にジャケットを差し出した。
コーヒーの染みはのいたのだけど………ジャケットの色が、色落ちしてしまったのだ………。
「ごめんなさい……」
何度謝っても足りない。
自分からやっておいて、染み抜きひとつ上手にできないなんて……。
ますます遥斗に嫌われる………もう嫌だ……。
「弁償するから……このジャケット、どこで買ったの…?」
お母さんにおこずかいを前借りして、一刻もはやく新品のジャケットを買ってこなきゃ。そうするしかないと思ったのに。
「………。別にいい」
お父さんの服を羽織っている遥斗はそう言って、わたしから上着とTシャツを取った。
絶対怒られると思っていたから、自分の耳を疑った。でも、遥斗はたしかに“別にいい”と言った。