「お前はいつも…」


遥斗は口を開いたけど…続きを言わなかった。


なんて言うつもりだったんだろう。


もしかして…わたしの好みを言おうとしたのかも。


もしそうなら、言ってほしかったな…。


遥斗の記憶のなかで、わたしはどれくらい残っているんだろう……。


わたしの思い出には、いつだって遥斗がいる。だから遥斗の思い出にも同じようにわたしがいるはずだけど……それは間違いなのかな。

わたしがそうだからって、遥斗も同じってわけじゃないんだよね。

だってわたしは遥斗のことが好きだけど、遥斗はわたしのことが、嫌いなんだから……。


遥斗の好きな人は、百合ちゃんだから……。


「…デートの邪魔して、ごめんね…」


おそらくせっかくのふたりの初デートだっただろうに、わたしがぶち壊してしまった。


百合ちゃんにもわるいことしちゃったな…きっと百合ちゃんのほうがショックだっただろう。

でも、わたしが百合ちゃんにそのことを謝るのはなんだかちがう気がする。

だって遥斗はわたしのことをかばってくれたから、百合ちゃんからしたら、そんな理由嬉しくないよね…。


「…お前のほうこそ」


「え…?」


お前のほう…わたしのほう…?


遥斗がせっかく話してくれたのに、言っている意味がわからなくて、一瞬とまどう。


ええと、わたしがデートの邪魔してごめんって言ったあとに、お前のほうこそってことは…。


「だ、大丈夫、ちゃんと連絡いれたから」


遥斗はきっと、わたしと竜がふたりで遊んでたって思ってるんだ。


竜とは偶然会っただけだけど、遊んでたって勘違いされてるほうが都合がいい。


だって、そうじゃなかったらわたしがあの場にひとりでいるなんて不自然だから。


遥斗は百合ちゃんと電話していた。わたしも竜に連絡をいれたことにしておこう。


……それにしても、わたしにコーヒーがかかるのをとっさに助けてくれたなんて……。


遥斗が昔からすごく優しいのは十分知ってるけど、嫌っているはずのわたしのことを、助けてくれた。なかなかできることじゃないと思う。遥斗はやっぱり優しい………。


「…遥斗、かばってくれてありがとう……」


遥斗には火傷を負わしてしまったけど、遥斗の優しさを久しぶりに感じて、正直すごくうれしい。


わたしはお礼を伝えただけなのに、遥斗はなぜかすごく不機嫌そうに見えた。


やっぱり、デートの邪魔したこと、怒ってるんだ…。


ふたりのあとをつけるなんて、二度とそんな馬鹿なことしないってわたしは神に誓った。