2センチほど指先に出して、赤く腫れているところに丁寧に優しく塗っていった。
さっきティッシュでこすってしまったことの反省を生かして、優しく、優しく。
……遥斗に触れるのなんて、いつぶりだろう。
塗りながら、そう考えずにはいられなかった。
服を着ているとあまり思わなかったのに、こうして見ると、男らしくたくましい腕。
運動部に入ってるわけじゃないのに……筋トレでもしてるのかな。
小さかったあの頃とは全然ちがう……まだ高2だけど、遥斗の体はもう大人だ。
「……痛くない…?」
またさっきみたいに痛い思いをさせたくなくて、思わず尋ねた。
「…ん」
「わたし、合ってる…?まちがってない…?」
もう、遥斗の前で間違いたくない…。これ以上遥斗のなかのわたしを下げたくない……。
「……合ってるよ」
返ってきたその“合ってるよ”がわたしにはなんだかとても優しく聞こえて、心が包まれるみたいに温かくなった。
よかった……。
そうだ……今、話すチャンスだ。
このままずっと無言だなんて、気まずすぎる……。
少しくらい、話したっていいよね…?
うるさくしなかったら大丈夫だよね……?
「…さっき、カフェでなに食べたの?」
一瞬無視されるかと思って怖かったけど、
「パスタ」
って遥斗は一言だけ返してくれた。
へえ~パスタかあ!やっぱりトマトパスタ?遥斗、パスタ頼むときいっつもトマトパスタだもんね!あ、そういえば、新作もトマトパスタじゃなかったっけ?もしかしてそれたのんだの!?
………これが、いつものわたし。
だけど今はそのテンションで話せるわけなくて。
そのテンションでは話せないけど、せめて…
「…遥斗はいつもトマトパスタ頼んでたよね」
これくらいは、言いたい。言わせてほしい。
わたし、ちゃんと遥斗のこと覚えてるんだよ。



