ええと…染み抜きって、どうやってするんだっけ…?


お母さんが前にコーヒーをこぼして、ここで染み抜きをしていたのをなんとか思い出そうとする。


あのとき、お母さんわたしに教えてくれようとしていたのに、わたし、めんどくさいって聞かなかったんだよね…。

ああ、ちゃんと聞いておけばよかった、と深く後悔した。こんなことになると分かっていたら、あのとき絶対メモまでとってお母さんから教わっていたのに。


えーっとたしか、こうやって下にタオルをしいて…。


なんとか自分流にやってみることにした。このコーヒーの染みは、一刻もはやくとらないと時間が経つにつれて取れにくくなることぐらいはわたしでも分かっていた。


ああして、こうして…。


なんとか染み抜きをやり終えて、ハンガーにかけて洗面台のそばに干したあと、すばやく遥斗のもとへと戻った。


「…うん、ほんとごめん。映画は、また今度行こう。…それじゃあ、明日」


リビングの手前で、遥斗がだれかと電話している声が聞こえてきた。相手はおそらく…百合ちゃんだ。今日きっと、お昼ご飯を食べたあと、映画を観る予定だったんだ……。


戻ってきたわたしに気づいた遥斗は、また、“しゃべらない遥斗”になってしまった。前までのわたしたちなら、会話が途切れることなんて一度もなかったのに…。わたしが8割しゃべってたけど……。


氷のうを預かって、わたしは遥斗のまえに膝立ちをしてティッシュで表面の水分をぬぐった。


赤く腫れてる。これは氷をあてていたからだけじゃないのは目で見てわかった。絶対熱かったよね……。


「ッ」

遥斗は一瞬顔をしかめたと思ったら、わたしからティッシュを奪って自分でトントンと優しく押さえるようにして水分をとった。


「ご、ごめん…っ」


そうか、こすったから痛かったんだ。こするんじゃなくて押さえるという遥斗のやり方が合ってる。


自分が不器用すぎて、嫌になる。

というか、不器用とか関係ない。

考えたらわかることだ。


きっと呆れられた……。


内心沈みつつ、かといって手当てを放棄するわけにもいかないので、わたしは次に塗り薬のキャップを開けた。