「…鍵」


扉の前でつぶやく遥斗にわたしはハッとして、あわててカバンから鍵を取り出した。


わたし、動揺しすきだ…。


自分の家に入るのに、扉の前で立ち止まって鍵のことも忘れるなんて。


遥斗がわたしの家に入るのは、4月に、遥斗の両親が仕事でいないため夜ご飯を食べに来た以来だ。4月まで、そういうことが月に1、2回あった。わたしが遥斗の家でごちそうになることもあった。今月は、一度もない……きっと遥斗は一人で食べているんだ。


「り、リビングで上着脱いで、待ってて…!」


遥斗とふたりきりなのが久しぶりすぎて、自分から招いたくせにとてつもなく緊張してきた。


バクバクバク──


よくもまあ、手当てさせてなんて言ったもんだ。


こんなに心臓は暴れているっていうのに。


だって、まさか遥斗とふたりきりとは思わなかった。


お母さん、いると思ったのに…。いったいどこに出かけたんだろう。


でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。


はやく手当てしなきゃ…!!


納戸から氷のう、火傷の塗り薬、ガーゼ、包帯、テープを持って、遥斗が入っていったリビングへと向かった。


「…っ!」


リビングにあるソファに腰かけている遥斗の姿に目を丸くした。だって、遥斗は上着だけでなく、中のTシャツも脱いでいて…上半身はタンクトップだけになっていたから。


「ひとまず、これで冷やして…!」


氷のうの中に急いで氷を詰めて、戸惑いを隠しながら手渡した。

遥斗は黙ったまま、露になった右腕を冷やしはじめた。


……目と目は、一度だって合わない。


「こ、コーヒーの染み、とってくるから…!」


遥斗が脱いだ上着とTシャツを手に持って、わたしは洗面台へと向かった。