冷たい幼なじみが好きなんです



「遥斗、待って……!」


遥斗はわたしのことをかばってくれたんだ。


わたしにコーヒーがかかってしまうのを助けてくれたんだ。


わたしのせいなのに、いくら近寄るなって言われているからって、このまま見て見ぬふりなんてできるわけない。


それなのに、遥斗はこんなときでもわたしのことを無視をする。


わたしと遥斗の身長差は25センチもある。だから歩幅だって全然ちがう。遥斗はただの早歩きのつもりだろうけど、わたしはそれについていくだけで必死だ。でも、体力だけは自信があるからよかった。


「はやく冷やさないとだめだよ…!!」


今くらい、わたしの話をきいてよ…!!


そう思うのに、全然聞いてくれる様子はない。


遥斗の横顔はなにを考えているのか全然読めない。ポーカーフェイスだ。少しぐらい熱がったり痛がったりしてくれたほうがまだましだ。むしろ怒ればいいのに。


遥斗はなにも言わないまま、ショッピングモールを後にして、電車にまで乗ってしまって。ガタンゴトンとわたしも一緒に揺られるしかなくて。


──とうとう、わたしたちの家にまで着いてしまった。


そんな大きなコーヒーの染みが付いたままデートを続けられないと思ったのだろうか。だからって、百合ちゃんは店員さんにタオルと氷をもらいに行ってくれていたのに……。


わたしのことは一度だって見ず、自分の家に入ろうとする遥斗に、わたしは最後の勇気を振り絞って遥斗の左腕をつかんだ。


「遥斗……!!わたしのせいで火傷したんだから、わたしに手当てさせて……!!わたしの家、火傷の薬も、包帯もあるから……」


これで無視されたら……もう二度と遥斗に関わらないほうがいいのかも……。


これで無視されたら、わたしは二度と勇気が芽生えることはないだろう。


だけど、その事態は免れた。


遥斗は自分の家に向けている足を、わたしの家に向けた。


そして、慣れた様子で門扉を開け、中へと入っていった。