「あのふたり、付き合ってんだな」
カフェを出て少し歩いたところで、竜のわたしの腕をつかむ手はそっと離れた。
百合ちゃんはお手洗いに行っていたわけだから、あのふたりが座っているところを見たわけでもないのに、竜はそう言い切った。
「…そ、そうみたいだね。偶然いて、びっくりした」
ふたりをつけていたなんて、竜でも知られたくない。だからわたしはごまかし、知らなかったふりをした。
竜はいつもどおりの口調で「そうか」って言った。
気づいているのか気づいていないのかは、わからない。
でも、竜には、わたしが遥斗を好きなことは言っていないから、特に深くは思われないよね。
「…相田、すげー変わったなー」
隣を歩く竜はいきなり一人言みたいにつぶやいた。
「…百合ちゃん?」
すごく変わったって…いったいなんのことだろうと疑問に思った。
「相田って今、学年で一番綺麗って言われてんじゃん?」
「うん、そうだね」
綺麗で、スタイルがよくて、頭もいい。さっき竜と話している様子からすると、中身もいい子そうだ。まさに完璧だ。
「でも、中学のときはそうでもなかったんだよ。言ったらわるいけど、けっこー太ってた印象だなー」
「え…っ」
竜の言葉に深く驚いた。
あの、華奢な百合ちゃんが…?うそでしょ…?
「それにさ、中3のとき同じクラスでたまに話してたけど、頭は俺より悪かった記憶がある。高校もギリギリで合格できたくらいだったような。なのに今、特進だろ。勉強すっげーがんばったんだろうな」
「………」
そう、なんだ…。
信じられないと思うほど、衝撃的だった。
百合ちゃんの今の見た目や中身は、努力のたまものなんだ…。
すごい…すごすぎる。
それにひきかえ、わたしは……
──自分が恥ずかしい。



